毎年12月頃になると発表される「税制改正大綱」
この時期、膨大なページ数の資料を前にして、思わずため息をついてしまう先生方も多いのではないでしょうか?
「どの顧問先にどのような影響があるのか」
「複雑な変更点をどう噛み砕いて経営者に伝えるべきか」
この情報の精査と整理にかかる時間は計り知れず、年末調整や確定申告の準備と重なる繁忙期において、精神的にも大きな負担となっているのが現実です。
しかし、もしその「読む・まとめる・書く」という作業の時間を半分以下に短縮できるとしたらどうでしょう?
近年、急速に普及しているChatGPTなどの生成AIは、まさに会計事務所の業務プロセスを一変させる可能性を秘めています。
本テーマでは、机上の空論ではない「会計事務所DX」の一環として、税制改正対応の実務をAIで効率化し、先生方が本来注力すべき「高付加価値な相談業務」に時間を割くための、具体的かつ実践的な手法を解説します。
これからの会計事務所DX:なぜ税制改正対応にAIが必要なのか?
◇限界を迎えるマンパワーと情報の洪水
インボイス制度の導入や電子帳簿保存法の義務化など、近年の税務行政は複雑化の一途を辿っています。それに伴い、我々税理士が処理すべき情報の量は爆発的に増加しました。かつてのように、所長やベテラン職員が全ての資料に目を通し、頭の中だけで知識を整理して顧問先ごとに最適化して伝えるというスタイルは、もはや物理的な限界を迎えつつあります。
特に、中小規模の事務所においては、情報のキャッチアップにリソースを割かれすぎると、肝心の「経営支援」や「資金繰り相談」といった、顧客が真に求めているサービスがおろそかになりかねません。ここで重要になるのが、「情報の整理」というプロセスそのものをDX(デジタルトランスフォーメーション)する視点です。
◇AIは「読む」「まとめる」「書き換える」が得意な最強の助手
ここで誤解していただきたくないのは、「AIに税務判断をさせるわけではない」という点です。税務判断はあくまで有資格者である税理士の独占業務であり、AIには荷が重すぎます。しかし、AIは「大量のテキストを読み込み、要点を抽出し、指定された形式に書き換える」という作業においては、人間を遥かに凌ぐスピードとスタミナを持っています。
いわば、AIは非常に優秀な「リサーチアシスタント」です。
彼らに一次情報の整理を任せることで、先生方は「整理された情報に基づく最終判断」と「顧客とのコミュニケーション」に集中できる環境を手に入れることが可能になります。
実践!ChatGPTで税制改正情報をサクッと整理するテクニック
◇長文の税制改正大綱も怖くない!AIによる要約術
税制改正大綱のような長文かつ難解な文書こそ、AIの得意分野です。
例えば、PDF化された大綱のテキストや、信頼できる省庁・団体の解説サイトの文章をコピーし、AIに読み込ませてみましょう。単に要約させるだけでなく、視点を指定することで、より実務的なメモを瞬時に作成できます。
以下に、実務ですぐに使えるプロンプト(指示文)の例を挙げます。
【有効なプロンプト例:情報の要約】
以下のテキストは、令和○年度の税制改正大綱の一部です。
この内容を読み込み、中小企業の経営者に影響があると思われるポイントを3つピックアップしてください。
それぞれのポイントについて、「改正前」「改正後」「想定される対策」の3項目で簡潔にまとめてください。
[ここに大綱のテキストを貼り付け]
◇自事務所の顧問先に関連するトピックを抽出する方法
顧問先の業種は多岐にわたります。
建設業、飲食業、IT業など、それぞれの業種に特化した情報抽出もAIなら容易です。
「この中から、飲食業に関連する『交際費課税』や『設備投資』に関する変更点だけを抽出して」と指示すれば、不要な情報を削ぎ落とし、必要な情報だけをピンポイントで取得できます。
これにより、顧問先ごとの「パーソナライズされた提案準備」にかかる時間を大幅に削減できるでしょう。
「伝わらない」を解消!顧問先への説明・案内文作成をAIで自動化
◇専門用語を「社長がわかる言葉」に翻訳する
税理士にとっての「当たり前」は、経営者にとっての「難解な呪文」であることが少なくありません。
「損金算入限度額」や「課税事業者選択届出書」といった言葉を、そのまま案内文に使ってはいないでしょうか?
AIを使えば、こうした専門用語を、相手の知識レベルに合わせた平易な言葉に「翻訳」することが可能です。
以下のような比較表をご覧ください。AIを活用することで、情報の受け取り手の心理的ハードルを下げることができます。
| 項目 | 従来の専門的な説明(Before) | AIによる平易な言い換え(After) |
|---|---|---|
| ターゲット | 税務知識のある経理担当者向け | 数字が苦手な現場出身の社長向け |
| 表現 | 電子取引データの保存義務化に伴い、タイムスタンプ等の要件確保が必要です。 | メールで受け取った請求書は、そのままパソコンに保存するだけではNGです。決まったルールで保存しないと経費として認められない可能性があります。 |
| 効果 | 正確だが、行動喚起に繋がりにくい | 危機感が伝わり、「何をすべきか」がイメージしやすい |
◇案内メールやニュースレターの構成案を3分で作る
改正内容を理解しても、それを顧問先への案内メールや事務所通信(ニュースレター)としてアウトプットするには、また別の労力が必要です。
文章の構成、挨拶文、締めの言葉など、ゼロから考えるのは骨が折れる作業です。
AIに「誰に」「何を」「どうしてほしいか」を伝えるだけで、たたき台となるドラフトを数秒で作成してくれます。
【有効なプロンプト例:案内メール作成】
あなたは親しみやすい税理士です。
顧問先の社長(IT企業)に向けて、今回の税制改正で「賃上げ促進税制」が強化されたことを知らせるメールのドラフトを作成してください。
条件:
・堅苦しすぎない、前向きなトーンで。
・制度の細かい要件よりも、「採用強化や給与アップを検討するチャンスである」というメリットを強調して。
・最後に「詳細は次回の月次面談でお話ししましょう」と結んで。
AI活用時に税理士が絶対に気をつけるべき注意点
◇セキュリティ対策:顧客の機密情報は入力しない
AI活用において最も注意すべきは情報漏洩リスクです。
ChatGPTなどの一般的なAIツールは、入力されたデータを学習に利用する可能性があります(設定により回避可能ですが、原則としてリスクはゼロではありません)。
したがって、「顧問先の具体的な社名」「個人名」「決算書の生データ(具体的な売上高や利益額)」などは絶対に入力してはいけません。
企業名は「A社」、金額は概算やダミーデータに置き換えるなど、徹底したマスキング処理が必要です。この倫理観こそが、専門家としての信頼を守る最後の砦となります。
◇ファクトチェック:最後は必ずプロの目で確認を
AIは時として、もっともらしい顔をして嘘をつくこと(ハルシネーション)があります。
特に税法のような厳密性が求められる分野では、AIの出力した数字や条文解釈を鵜呑みにするのは危険です。
AIの役割はあくまで「ドラフト(下書き)の作成」や「情報の整理」まで。最終的な内容の正確性を担保し、責任を持って署名するのは、有資格者である先生方ご自身の役割であることを忘れないでください。
さいごに
AIは決して税理士の仕事を奪う敵ではありません。
むしろ、煩雑な情報整理や定型的な文書作成といった「守りの業務」から税理士を解放し、人間にしかできない温かみのあるコミュニケーションや高度な経営判断といった「攻めの業務」に専念させてくれる強力なパートナーです。
まずは、身近な案内文の作成や、難解な条文の要約といった小さなタスクからAIを試してみませんか?
ケアオフィスリンク株式会社では、こうした会計事務所様向けの生成AI導入支援や、バックオフィス業務の効率化コンサルティングを手がけております。
「まずは何から始めればいいかわからない」という先生方は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。
先生方の事務所運営がよりスムーズになるよう、伴走支援させていただきます。
2026年1月13日 カテゴリー: AI

